ダイエットを何ヶ月か続けてると、必ず一回は来ます。「もっと減らしたら、もっと早いんちゃうか」という誘惑。
とくに停滞したときです。1,500を1,200に、1,200を1,000に、いっそ夜は食べへん。#15で「体重が減ると必要量も減る」という話を書きましたけど、あれを知ると余計に「じゃあもっと引くか」となる。私も何回か手が伸びかけました。
なので今日は、その話です。先に言っておくと、これは「危険です、やめなさい」と脅す記事ではありません。 私は医者でも管理栄養士でもないので、そんなことを言う資格はない。研究で何が指摘されているかを、そのまま並べるだけの回です。
結論を1行で
極端に減らすと、短期では確かに速く落ちる。でも1年後の差は消える。そして落ちた分に占める“脂肪じゃないもの”の割合が増える。
そもそも「極端」って、どこから
研究の世界では線引きがあります。
- VLCD(超低カロリー食)=1日800kcal未満。1970年代から急速な減量のために使われてきた方法で、Tsai & Wadden のレビューでもこの定義が使われています。
- いっぽう、よく目にする「1日1,200kcalを下回らない」という目安。これは#15でも書いたとおり、私は一次資料を確認できていません。広く言われている目安として置いておきます。
で、正直なところ、境界線が800なのか1,200なのかはあんまり重要じゃないと思ってます。大事なのは「下げれば下げるほど、何が起きるか」のほう。そこには、ちゃんとデータがあります。
論文1:短期は圧勝。でも1年後は同じ(Tsai & Wadden 2006)
これがいちばん分かりやすい結果です。
- どんな研究か……VLCD(800kcal未満)と、通常の低カロリー食(LCD)を直接比べたランダム化試験のメタ解析。条件が厳しくて、最大減量から1年以上の追跡があるものだけを集めています。該当したのは6試験。
- 短期の結果……VLCD群は初期体重の16.1±1.6%減、LCD群は9.7±2.4%減(p=0.0001)。短期ではVLCDの圧勝です。ここは疑いようがない。
- 長期(1年以上)の結果……VLCD群6.3±3.2%、LCD群5.0±4.0%(p>0.2)。有意差なし。
- 脱落率も両群で同程度でした。
- 著者の結論……「VLCDはLCDより大きな長期減量をもたらさなかった」。
16.1% と 9.7% が、1年後には 6.3% と 5.0% になる。あれだけ我慢した差が、1年でほぼ消える。 このグラフを頭に入れておくだけで、だいぶ手が止まると思います。
論文2:きつく絞るほど、落ちるものの中身が変わる(Chaston 2007)
「速さ」の次は「中身」の話。
- どんな研究か……10kg以上の減量の前後で、除脂肪量(FFM=筋肉や内臓など、脂肪以外)を信頼できる方法で測った研究を集めた系統的レビュー。食事・行動介入の26コホートと、減量手術の29コホートが対象です。
- いちばん大事な結果……カロリー制限の強さと、「減った体重のうち除脂肪量が占める割合(%FFML)」に正の相関(r²=0.31、P=0.006)。つまりきつく絞るほど、落ちた分に占める“脂肪以外”の割合が増える。
- 運動は、その割合を下げた……3つのランダム化比較試験で、運動が%FFMLを下げることが示されています。同じだけ落とすなら、動きながら落としたほうが中身がいい。
- 著者の結論には「減量のスピードも影響する」と明記されています。
体重計の数字は「減った量」しか教えてくれません。その中身が何だったかは、教えてくれない。 ここがこの論文のいちばん怖いところで、いちばん役に立つところやと思います。
論文3:代謝の落ち込みが、年単位で残ることがある(Fothergill 2016)
これは有名な研究です。アメリカの減量番組「The Biggest Loser」の参加者を、NIH(アメリカ国立衛生研究所)が追跡したもの。
- どんな研究か……当初調べた16人のうち14人を、競技終了から6年後まで追跡。体組成はDXAで、安静時代謝量(RMR)は間接熱量測定で実測しています。
- 30週の競技終了時……平均58.3±24.9kgの減量。安静時代謝は1日610±483kcal低下。
- 6年後……41.0±31.3kg をリバウンド。にもかかわらず、安静時代謝はベースラインより1日704±427kcal 低いまま。体組成と年齢で調整した「代謝適応」は−499±207kcal/日でした。
- 意外な結果……6年後に減量をよく維持できていた人ほど、代謝の落ち込みも大きかった(r=0.59、P=0.025)。維持は、代謝の落ち込みと引き換えにやっている面がある、ということです。
ただし、ここは強めに但し書きを。 これは14人の研究で、しかもテレビ番組で30週に58kg落とすという極端な条件です。私たちがやってる普通のダイエットに、そのまま当てはめられる話ではありません。著者も「代謝適応は、減らそうとしている努力に比例した反応」と書いています。
それでも、「短期間に激しく落とすと、その代償が年単位で残ることがある」と実測で示した研究として、これは重い。少なくとも「早く落とすほど得」とは、もう思えなくなりました。
じゃあ、どうするか(Cava 2017/Longland 2016)
脅して終わりだと意味がないので、対策側の研究も。
- 総説の結論(Cava 2017)……減量で筋肉を守るには、①十分な(ただし過剰でない)たんぱく質 ②運動、とくにレジスタンス運動。この総説は「食事による減量は筋量を減らすが、筋力そのものは悪化させない」「減量で全体的な身体機能はむしろ改善する(脂肪が減るため)」とも整理しています。高たんぱくは除脂肪量の保持には役立つが、筋力を上げるわけではなく、摂りすぎは代謝面で不利になりうるとも。#12で書いたDITの話と、ここは必ずセットで読みたい。
- ランダム化試験(Longland 2016)……若い男性40人を対象に、必要量から約40%減らした食事を4週間。たんぱく質1.2g/kg除脂肪量/日の群と2.4g/kg/日の群に分け、全員が週6日、筋トレ+高強度インターバルをやりました。結果、高たんぱく群は除脂肪量が1.2±1.0kg 増加(低たんぱく群は0.1±1.0kg)、脂肪量は−4.8±1.6kg 減少(低たんぱく群は−3.5±1.4kg)。いずれも有意差ありです。
Longlandの条件はかなりハードです(週6日、筋トレ+高強度インターバル、若い男性)。私に同じことはできません。でも方向は明確で、「食べない」より「たんぱく質を確保して、動く」ほうに答えがある。
自分への応用
私は今、毎晩たんぱく質を積むやり方でやってます(#12・#05)。あれは満腹感と代謝のためやと思ってましたけど、今回いろいろ読んで、もうひとつ意味が増えました。落ちるものの“中身”を選ぶためでもあったんやなと。
そして、停滞したときの選択肢をあらためて整理すると、こうなります。
- ❌ もっと食べない …… 短期は速いが1年後の差は消え、落ちる中身が悪くなる
- ⭕️ 歩く量を増やす(#10・NEAT)
- ⭕️ たんぱく質を確保する(#12)
- ⭕️ とにかく記録を切らさない(#14)
「もっと減らす」だけが、唯一やらんほうがええ選択肢として残った感じです。地味やけど、そういうことなんやと思います。お盆に8日間だらだらしてた人間が言うのもなんですけど(笑)、速さより中身。
最後に、ここだけは真面目に書かせてください。
食べるのが怖い。食べたあとに強い罪悪感が出る。数字が減らないと一日じゅう落ち着かない。 ——そういう状態になっているとしたら、それはもうカロリーの計算の話ではなくなっています。私に書けることではないので、そのときは遠慮なく、お医者さんに相談してください。 恥ずかしいことでも、意志が弱いことでもまったくないです。私も何度も止まっては再開してるだけの、ただのおっさんなので。
まとめ
- 研究上、VLCD=1日800kcal未満。短期はVLCDが圧勝(16.1% vs 9.7%)だが、1年後は有意差なし(6.3% vs 5.0%)(Tsai & Wadden 2006)
- カロリー制限がきついほど、落ちた体重に占める除脂肪量の割合が増える(r²=0.31, P=0.006)。運動はその割合を下げる(Chaston 2007)
- 極端な減量では、代謝の落ち込みが6年後も残っていた(−499kcal/日)。ただし14人・番組という極端な条件(Fothergill 2016)
- 筋肉を守るのは適量のたんぱく質+運動(とくにレジスタンス)(Cava 2017/Longland 2016)
- 停滞したら「減らす」より「動く・たんぱく質・記録を切らさない」
#14からここまで4本、結局ぜんぶ同じことを言ってた気がします。速く落とすより、切らさずに続けるほう。私は72日止めてから戻ってきた側の人間なので、余計にそう思います。今日も測って、書いて、寝ます。
出典
- Tsai AG, Wadden TA. The evolution of very-low-calorie diets: an update and meta-analysis. Obesity (Silver Spring). 2006;14(8):1283-1293.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16988070/ - Chaston TB, Dixon JB, O’Brien PE. Changes in fat-free mass during significant weight loss: a systematic review. Int J Obes (Lond). 2007;31(5):743-750.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17075583/ - Fothergill E, Guo J, Howard L, et al. Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition. Obesity (Silver Spring). 2016;24(8):1612-1619.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27136388/ - Cava E, Yeat NC, Mittendorfer B. Preserving Healthy Muscle during Weight Loss. Adv Nutr. 2017;8(3):511-519.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28507015/ - Longland TM, Oikawa SY, Mitchell CJ, Devries MC, Phillips SM. Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial. Am J Clin Nutr. 2016;103(3):738-746.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26817506/
※出典についての正直な注記:「1日1,200kcalを下回らない」という下限の目安は、この記事では特定の論文に紐づけていません(広く言われている目安として書いています)。VLCDの定義である「800kcal未満」は、上記 Tsai & Wadden 2006 に基づいています。
※この記事は、上の論文・レビューをもとに、私なりに噛み砕いたメモです。数値はあくまで研究上の目安で、効果には個人差があります。医療アドバイスではありません。 食事内容を大きく変えるとき、持病がある方、薬を飲んでいる方、食べることに強いつらさがある方は、必ず医師にご相談ください。
◀ 前の記事:【健康論文メモ #16】一人より、仲間と。
📚 このシリーズの全記事を見る


コメント